〜前十字締めの精度を踏まえた段階的な稽古方法〜
八光流柔術の初段技「首絞捕」は、稽古が極めて難しい技の一つです。
なぜなら、この技の前提となる立位での前十字締めを、精度高くかけられる師範が非常に少ないからです。

初代宗家の時代には、他武道で鍛えられた猛者が多数入門されていました。しかし現代では、他武道を本格的に修めた師範資格者の割合は減少傾向にあるように感じます。短期速習や「技のコツ」といった謳い文句が先行する一方で、武道の本質に真摯に向き合う層が相対的に遠ざけられているのかもしれません。その結果、型の想定が徐々に甘くなっている印象を受けます。
特に首絞捕は、相手が本気で手を使って押し返しても解けない、逃れられない状態から仕掛けてこそ意味のある技です。しかしSNS上で見かける指導動画の中には、(ただ腕を交差させながら相手の両襟を掴むのみで、下記のイラストの様に腕が伸ばして)前十字締めが不十分なまま「技のコツ」を熱心に解説されているケースが少なくありません。

不完全な想定で語られる「技のコツ」とは何を目的としているのでしょうか?一体、何に役立つのか——正直なところ、疑問を感じざるを得ません。
「首絞捕」は、合気道の肘決め投げに近い形で、相手の腕を伸ばしながら外側から押さえつつ投げ落とすように型を終えます。私はこの部分の技術を個人的に「攻落(せめおとし)」と名付け、道場では敢えて受(掛け側)の攻め口を片襟取りに変更して稽古しています。
本来の攻め口を捨てるのは一見遠回りに見えますが、「首絞捕」の中に含まれる本質的な「攻落」の技術だけを抽出して深く練るためです。(上のイラストの様な)不十分な前十字締めに対して「攻落」を無理に仕掛けようとしても、本来の技の良さは発揮されません。相手が両襟を交差して掴んでいるものの、腕を十分に引き絞っていない状態では、「攻落」よりも脇への当身を入れたり、上腕部を下から押し上げて後方に崩すなど、代替手段が多数存在します。
敢えて「攻落」を仕掛ける必然性が出来上がっていない状態で工夫を重ねるのは、マイナスをマイナスで打ち消すような空虚な努力に感じられます。それならば、前十字締めの精度が上がるまでは攻め口を片襟取りに変更し、後半の「攻落」の技術を確実に身につけた方が、よほど建設的ではないでしょうか。

加えて、「首絞捕」の受けは非常に難しいものです。型を馴れ合いでなく本気で稽古しようとすれば、受け側は投げ落とされる直前まで思い切り締め上げる必要があります。自分の受身を優先して早めに絞めを解いてしまうと、稽古の精度が大幅に落ちてしまいます。熟練した指導者が受けを務める場合は別ですが、初心者・中級者同士、あるいは型の本質を十分理解していない師範資格者が指導する場合には、精度が上がりにくいのが現実です。

「首絞捕」は初段技に分類されていますが、求められる技術レベルは決して低くありません。最初から100%の完成度を目指すとかえって「悪しき工夫」に陥る危険性があります。まずは基礎となる締めの精度を高め、段階的に深めていく姿勢が重要だと考えます。





