柔術・古武術・秘伝の探求

八光流柔術の道場「やわらいしゃ」のブログです

剣術からの柔術再発見

八光流柔術の初段技「横片手押捕」は合気道で言うところの四方投系統の技です。二段技では立った状態から仕掛ける「前二方投」「後二方投」と言う同系統の技を学びますが、初段技「横片手押捕」では自分は正座、相手は立位の半立技になります。

 

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自分の手首を掴みながら殴りかかってくる相手に対して掴まれた腕の指先から前腕部を相手に向けて相手の勢いを止めて、空いている手で相手の手首を引っ掛けて自分の背後に向けて相手を崩しながら投げる技です。掴まれていない側の腕を反対側に伸ばして相手の手首を取りにいく部分が非常に難しく八光流に入門した当時は随分と苦労しました。

しかしながら、横片手押捕における腕の構えも師範によって説明に揺らぎがあり、自分自身の技の使い方も曖昧になった時期がありました。数年前から教本の精読を始めて以降は、腕を体幹から離して構える形を励行しています。

最近は柔術の稽古自体は疎かになっていますが、2年前から学び始めた古流剣術の技の中に横片手押捕の腕遣いに通じる構えがあると気が付きました。相手の打込みを頭上で防ぐ構えですが、初心者にとって最初の難関になる構えです。

横片手押捕と同じく体幹部と腕の間に適切な空間を保つのがポイントですが、ほとんどの人が剣を横に引いて打ち負けてしまいます。背中や肩周りが硬いと正しい構えを保てないので、構えを習得するには身体を解すことも重要です。横片手押捕も相手が近づくのを防ぐために腕を張るので、同じ様な構えになるのだと思います。

最近、相手を引き込んで相手の腕を抱える様にして横片手押捕をかけている写真をネットで発見しました。気になって教本を読み返したり、自分の過去の演武映像を確認しましたが、2020年頃は私自身も腕を抱える取口をしていました。教本の精読を始める少し前の時期であり、当時は技が乱れて試行錯誤していたと思います。身体の都合に合わせて横着な動きをしていたと大反省です。

横片手押捕の腕の構えについては、掴まれる方の手に木剣等を持って稽古すると動きが分かりやすいかも知れません。姿勢や剣の動きで相手を制する様子が理解でき柔術に対する理解も深まるでしょう。横片手押捕において相手の腕を抱える取口は必ずしも全否定すべきものでもありません。そう言う技があっても良いと思います。しかしながら、剣術の視点から横片手押捕を見てみると、わざわざ難しい構えをする意味が分かってきます。そして、初代宗家の八光流柔術が日本古来の武術の理合をシッカリと受け継いでいることを実感するでしょう。

 

 

肩を回すこと(そして胸腹分離)

八光流柔術の初段技に「腕押捕」と言う技があります。上腕部を掴んで暴行を加えようとする相手を組み伏せる技で合気道大東流でも類似技法はあると思いますが、八光流柔術「腕押捕」の特徴は身体の向きを変えずに相手に向かって真っ直ぐに上体を倒しながら相手を崩す点です。

 

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教本には、(相手が左手で我が右腕を掴んできた場合)右の肩を相手の左膝にぶつける様に身体を倒せ!と書いてありますが、斜めに身体を捻ろうとすると上手く行けいません。

 

そこで鳩尾から上の部分(胸郭)だけを左回転させて右肩を出して下腹を引っ込める様にして真っ直ぐに上体を倒します。水平方向と縦の動きを合成して斜めの動きを生み出す訳ですが、こうする事で相手の左手を抑えていきます。(技を受ける側は終始、手首から肩口にかけて何とも言えない圧を感じることになります)

 

この時に重要なのは胸と腹を分離する事です。コレが出来ないと肩を回す時に腹まで回さねばなりません。座り技の場合には座ったまま脚を広げて向きを変える必要がありますが、腹(へそ)の向きが変わる事で相手に対する攻め(圧)が緩む懸念があります。

 

もちろん、相手を組み伏せる時に「身体を回す」流儀では、別の方法論で緩みを防ぐか?或いは緩みを利用した取口があるかも知れないので一概に方法論の優劣は判断出来ません。しかしながら、八光流で採用されているシンプルな取口を担保するために胸と腹の分離が必須だと考えます。

 

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ここで使っている「肩を回す」「胸と腹の分離」は他の技(胸押捕、立ち当、後攻落、合気投、手鏡等)でも幅広く使われ、八光流柔術を使う上で極めて重要な技術だと思いますが、肩を回す重要性を改めて認識出来たのは剣術の稽古のお陰です。

 

この記事を書いている2024年7月の時点では数ヵ月間、柔術の稽古はしていません。しかしながら、学んでいる剣術の技に体術的な要素が数多く含まれている為、剣術の稽古が柔術の稽古にもなっているところです。腰の構えや掌の使い方など、深い部分で通底している部分が多く、剣術を通して柔術を再発見しています。

 

八光流柔術には確かに古流武術の伝統的な技法が継承されていると感じられます。一方で分派の誕生、海外への伝承も含めた普及の中で技術の核心部が失われつつあるのも事実でしょう。SNSで流れてくる動画を眺めながら、そう感じることも多くなっています。

 

 

 

 

 

 

後二方投について

二方投は合気道で言う四方投と類似の技です。細かい点を除けば同じ技と言っても差し支えないのですが、前二方投、後二方投ともに片膝をついて低い姿勢で投げるのが特徴です。二方投には前二方投と後二方投があり、二段技と呼ばれる型の中に組み込まれていています。二方投を学ぶ前段階で、横片手押捕(初段技)、前両手押捕(二段技)で四方投チックな技を学びますが、これらは座技、半立技(半座半立)となります。一方で奥傳に行くと立位の低い姿勢のまま膝をつかずに投げる技を学びます。

 

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さて、今回取り上げる後二方投ですが、八光流の修行者の中でも誤解が多い技だと感じています。(教本の通りに技をかけるならば)後二方投は相手に正面から両手を掴まれた状態から、足を後に(正確には相手から見て斜め後方)に引きながら片膝をつき、片膝の足を左右に入れ替えて回転し投げを打つ技です。

 

しかしながら多くの修行者は相手の手首を捕えつつ、相手と背中合わせになりながら相手の背後(裏)に入って投げを打っています。片膝をつけない人も少なくありませんが、これだと合気道の四方投(裏)とほぼ同じ技になります。

 

八光流の修行者の中には合気道を併修している方も少なくないのでメジャー武道である合気道の影響もあると思いますが、教本を読んでいない人が多いのも原因だと思います。また少し厳し目の表現をすると教本を読んで内容を理解出来るほどの稽古を積んでいる師範が少ないのかも知れません。

 

実際、教本に書かれている後二方投の足捌きは難解です。私も長い間、(左右の足遣いについての)書き間違えや印刷の誤植があるのでは?っと考えていました。しかし仔細に検証してみると掲載されている写真も教本の解説通りです。

 

そもそも多くの人が後二方投を合気道で言う四方投(裏)の様に解釈しているのは、前二方投と後二方投に完された「前・後」の言葉の意味を相手の「表側と裏側」と言う風に勘違いしているからではないでしょうか?

 

因みに前二方投は片手首を掴んできた相手が、もう一方の手で殴りにくる瞬間に前に踏み込み相手の足元に潜り込みます。つまり、前二方投は前に踏み込んで仕掛ける技。対する後二方投は両手をガッチリと掴まれて前に踏み込めない所を後ろに退いて仕掛ける技。本来は、この様な解釈であったと思案しています。この解釈であれば、前二方投と後二方投で受側の攻め口(片手取・両手取)が変わる点も合理的に説明できます。

 

後に下がりながら片膝をつくのは、立ったまま相手の背後に回るよりも少し難度が上がる気がします。難しい解釈を避けて簡単に出来る運用方法が普及したのかも知れません。

 

 

「女子護身道」について

八光流初代宗家が考案した型で「女子護身道」と言う素晴らしい型があります。ネットを丹念に探せば当時の教本の写真も見つかりますが、型自体は非常にシンプルで本数も11本しかありませんので、教本通りに真似をしても失望するだけでしょう。


では何故素晴らしいと言えるのか?

 

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それは、女子護身道が小手先の技術を伝える型ではなくて身体を鍛える目的を兼ね備えているからです。肥田式強健術をベースとした皇法護身体操の組手型と位置付けても良いと思います。肚と腰を練る事を念頭においた型とも言えます。

 

数年前に八光流本部道場で教伝が復活し、私は第1回講習会と復習の為に2〜3回目の講習会にも参加しました。

 
感想を言えば、第1回講習が最高に素晴らしかったのですが、2回目以降は少し技を隠している印象を受けました。第1回講習で詳しく解説されていた内容は省かれたり、第3回目に至っては型の取口まで変わっていました。

 

冒頭で述べた通り、女子護身道の型数は僅か11本です。最初の講習会で型を全て受け取ったにも関わらず免状は初伝となっていたので、途中からカリキュラムを変更したのか?

 

この点を講習会をサポートしていた方に質問しましたが、当時は明確な回答を頂けなかったです。「まあ、色々と事情があるのだろう」と考えましたが、回を追うごとに講習内容に変化が生じていたのは事実だったと思います。

 

第3回講習終了後、しばらく経った後で講習会のサポート役の方に当時の状況を説明頂けたのですが「意図的に技を隠すつもりはなかった」との事でした。実は講習会をサポートした方が、古い技術を復活させた張本人だったのですが、第2回目以降は色々とノイズが入って講習会運営が中途半端になった様です。「稽古不足では何も伝わらない!」っと言う事も仰っていましたが、果たして何を指しているのか?

 

私自身は第1回講習会に参加できたので、一定水準以上の技を受け取る事ができたのかな〜っと感謝しています。第2回、第3回講習の参加者も相応の満足感はあったと思いますが、第1回講習に参加していたら、全く違うレベルの驚きがあったと思います。


もう一度、あのレベルの講習会を開催して欲しいと願っていますが、一方で女子護身道を復活させた立役者は行方知れずなので、今後本格的な型を学ぶのは難しいのではないでしょうか?(実際はどうなんでしょうか?)

 

皇法護身体操も同じ師範が研究を重ねて本部教傳復活に辿り着いたのですが、こちらも素晴らしい講習内容でした。まだ女子護身道にも護身体操にも触れていない人達も和多くいるので、形が変わっても何処かで講習会が復活する事を祈念しています。

 

 

 

 

 

 

 

掌の形は秘伝か?

大東流合気道合気柔術の諸流では、手の開き方に様々な工夫や教え、口伝が伝えられていると理解していますが、それらの教えは果たして秘伝なのでしょうか?

 

秘伝や極意と言うよりも基本中の基本、基礎の基礎と捉えた方が良いでしょう。と言うのは、そもそも手の開き方が間違っていると技が全く別物になってしまうと考えるからです。

 

私が学んだ八光流柔術では1番最初の型「八光捕」で手を開く事を学びます。私が学んだ先生は常々「型から離れろ!技は型通りには行かない」と仰っていましたが、一方で「八光捕が出来なければ何も出来ない」と言われた事もあります。

 

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「先生の八光捕」

 

ただ、入門当時を振り返ると手の開き方を詳しく習った記憶はありません。「指をパッと広げる」とか、その程度の説明しか受けた事がなかったです。初代宗家が著した教本にも「写真の如く充分に開く」とか、その程度の記述しかないので、基本的な技術でありながら初心者の段階で詳細な説明を受けた人は殆どいないのではないでしょうか?

 

だからキャリアの相当に長い人、道場長クラスの人でも「掌が八光流らしくないな〜」と感じる人が散見されます。簡単に言うと手を開くと言うよりも指を反らしている人達。背筋を伸ばそうとして「徒に腰を反らして」身体を痛めるのと同じくらいピンピンに指を反らしている人もいますが、長いキャリアの中で身につけたテクニックもあるので、基本的技術が危うい水準でも何とかなる場合も多いです。

 

その様な訳で修練が後回しにされがちなのは確かな事実であり、結果として正しく習得される人が少なくなり秘伝、奥伝の扱いを受けるのかも知れません。しかしながら、基本的技術であるが故に、方向性を間違えたままだと進歩に支障を気たすのは間違いありません。

 

八光流の場合ですと指圧(の施術技術)や、(運良く眞傳を学べたならば)護身体操や女子護身道の身体遣いとも関連します。色々と試行錯誤する中で「コレだ!」っと言うモノを見つけて下さい。少なくとも八光流においては秘伝とされる技術ではありません。上手い教え方を普及していないので結果として秘伝扱いされているだけです。本当に基本的な技術なので真面目に稽古していれば、ヒントに出会いますし自得可能だと思います。

 

変なセミナーで無駄金を使う必要はありません(っと言うのは言い過ぎかも知れないので、ご放念下さい。)

 

 

 

 

 

 

 

天地投げと引投げ

八光流の初段技で、最も良く稽古される技の一つである「引投げ」は合気道の天地投げと似ていると言われる事があります。中には「アレは合気道の天地投げと同じだよ」と乱暴な表現をされる方もいましたが、幾つかの明確な違いがあります。

 

最も大きな違いは相手を投げ捨てる方向です。天地投げは相手の斜め後方に投げますが、引投げでは自分の斜め後方(或いは横方向)に投げ捨てます。この違いは技の動きに端的に現れていて、天地投げは片方の手を相手の肩より上に挙げてから首元に切り下ろしつつ相手を崩しますが、引投げは相手の肩を下から突き上げる様に崩します。

 

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切り下ろしか、突き上げか?の違いで技のテンポも変わってきます。合気道の天地投げは相手を据え物にして切り下げている様で動きに余裕がある印象です。八光流の引投げは掴まれた体勢のまま、相手を突き上げて崩すのでテンポが早い印象を受けます。

 

実は投げる方向と動きのテンポを担保する為に、両手を広げず、突き上げる方の腕も出来るだけ低い位置に置くのが重要ですが、師範資格者でも両腕を大きく広げる人が少なくないです。技が全く効かない!っと言う訳ではありませんが、手動きが大きいと緩い技になってしまします。

 

師範口伝で腕の動きの一部を修正されますが、部分的な修正に止まります。技の効きが弱いと感じる方は技全体の見直しが必要です。両腕を広げる引投げは本来の形から大きく変化しています。ここで言う本来の形とは座り技「合気投げ」の形です。引投げと合気投げは立ちと座りで一対を形成していますが、名称が異なります。

 

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天地投げと引投げの違いを明確に意識できると八光流の技に対する理解も大きく進むと思います。八光流を稽古している方は是非、深掘りして欲しいです。合気道を稽古されている方も、機会があれば、八光流を体験して下さい。道場を探すのは大変かと思いますが、、、。

 

 

 

後逆首〆捕について

八光流柔術本傳の三段技9ヶ条の「後逆首〆捕」は正座している取の背後から掛(受側)が首を絞めながら肘を折りに来るところ、腕の極めを解いて反撃する技です。

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掛の攻め口として、首締と肘折を同時に行うのですが、不安定な片足立ちで2つの攻めを同時に成立させるのは簡単ではありません。掛の攻め口が甘いと稽古にならないので、先ずは掛の攻め口の稽古から入るべきでしょう。

添付したイラストでは首を絞める側の足で相手の肘を極めていますが、教本では反対側の足を使っています。

どちらの足を使うべきか?色々と考えて試行錯誤しましたが、現時点で正解は出ていません。特に拘りがないのであれば、教本通りに稽古されれば良いと思います。

取は、極められている腕の指先を自分の顔の前まで寄せつつ反対側の手で相手の掴み手を取り、そこから相手を大きく横に振って斜め前まで誘導しながら肩、肘、手首を後手に極め返す技です。相手を横から斜前に誘導しながら極める技を「持廻り」と呼んでいます。

ところで、何故この様な複雑な攻め口を採用したのか?とずっと疑問に思っていますが、未だに謎は解明されていません。強いて言えば、持廻りを稽古させるための状況設定と言う理由でしょうか?

実際のところ、腕を極めにいかずに首〆に集中した方が厳しい攻めになると思います。例えば、肘を押さえる代わりに片足で背後から太腿の付け根(鼠蹊部)を抑えながら締めると相手は立ち上がる事も叶わず非常に厳しい攻め口になります。興味のある方はお試し下さい。