柔術・古武術・秘伝の探求

八光流柔術の道場「やわらいしゃ」のブログです

後逆首〆捕について

八光流柔術本傳の三段技9ヶ条の「後逆首〆捕」は正座している取の背後から掛(受側)が首を絞めながら肘を折りに来るところ、腕の極めを解いて反撃する技です。

f:id:Yawaraisha:20240413151517j:image

 

掛の攻め口として、首締と肘折を同時に行うのですが、不安定な片足立ちで2つの攻めを同時に成立させるのは簡単ではありません。掛の攻め口が甘いと稽古にならないので、先ずは掛の攻め口の稽古から入るべきでしょう。

添付したイラストでは首を絞める側の足で相手の肘を極めていますが、教本では反対側の足を使っています。

どちらの足を使うべきか?色々と考えて試行錯誤しましたが、現時点で正解は出ていません。特に拘りがないのであれば、教本通りに稽古されれば良いと思います。

取は、極められている腕の指先を自分の顔の前まで寄せつつ反対側の手で相手の掴み手を取り、そこから相手を大きく横に振って斜め前まで誘導しながら肩、肘、手首を後手に極め返す技です。相手を横から斜前に誘導しながら極める技を「持廻り」と呼んでいます。

ところで、何故この様な複雑な攻め口を採用したのか?とずっと疑問に思っていますが、未だに謎は解明されていません。強いて言えば、持廻りを稽古させるための状況設定と言う理由でしょうか?

実際のところ、腕を極めにいかずに首〆に集中した方が厳しい攻めになると思います。例えば、肘を押さえる代わりに片足で背後から太腿の付け根(鼠蹊部)を抑えながら締めると相手は立ち上がる事も叶わず非常に厳しい攻め口になります。興味のある方はお試し下さい。

 

 

 

 

 

姿勢を整える事

以下の写真は2020年11月14日の稽古写真。

 

X(旧Twitter)に投稿していた記事からダウンロードしましたが、この頃の稽古では姿勢の要求をかなり厳密にしていた様です。狭い身幅の中で技を掛けようとする意図が写真から伝わって来ます。

 

f:id:Yawaraisha:20240204012550j:image

 

因みに写真で取り組んでいる技は初段技「腕押捕」です。基本技でありながら、難度の高い技です。かなり高いレベルで稽古出来ていたと思いますが、この頃はまだ相手を弾き飛ばすか、下に押し潰す事だけを考えて稽古していました。今、見返すと外に弾く術理特有の硬さを感じます。

しかしながら、丁寧に姿勢を整えている為、ある種の様式美を感じます。やはり、最初は柔らかさを求めるよりも自分の姿勢と向き合って、身体の緩みを取っていく方が上達への近道だと思います。その際に注意すべき点は、身体正面を相手に向ける事、つまり相手を攻める事です。

相手の力をいなす、流す、相手とぶつからない!っと言う事を考え過ぎると身体が横を向きます。この状態で相手を崩そうとしても自分の力を上手く相手に伝えられません。結果として腕力に頼る事になります。

最近、ある八光流の皆傳師範が「剛の稽古」と書いている投稿を見ました。おそらく姿勢の厳密さを追求していると推察します。何故なら、姿勢に対する要求を厳密化すると稽古の強度も上がっていくからです。

自分の修めた流儀を貶める意図はありませんが、現代の八光流の稽古は、脱力と言うキーワードばかりが強調されて姿勢に対する要求レベルが低くなっいると懸念しています。脱力強調タイプの稽古を「柔の稽古」とするならば、姿勢を重要視するスタイルは「剛の稽古」と言えなくもありません。

とは言え、姿勢に厳しい稽古も運用を誤ると「柔術が剛術に」なりかねません。あまり、剛だとか、柔だとか、言わずに自然体の稽古をしたいと考えています。

 

 

 

 

 

 

掌屈と背屈

八光流の基本的な技術に「お化けの手」と言うテクニックがあります。正面にいる相手から両手首を掴まれて押さえつけられた時に指先を下に垂らしながら「お化けの様な」ポーズすると手首を押さえつけていた相手も抵抗できずに手首を持ち上げる事が出来ます。

 

f:id:Yawaraisha:20240317114357j:image

 

八光流を学んでいる者であれば当然の様に知っている基本的テクニックですが、型の中には組み込まれずに口伝として継承されています。

「お化けの手」で注目したいポイントは手首を掌屈(掌側に曲がること)させる事です。同じ様な状況(両手取)に対処する「八光捕」では手首を曲げない筈ですが、中には指先を拡げる時に背屈させる方もいます。

 

おそらく、指先を広げる事に一所懸命になり過ぎて手首が力んでいる人が多いのではないでしょうか?八光捕を稽古する時に、途中で動きを止めて手の甲を上に向けて下さい。その時に指先が自然に下に垂れて「お化けの手」になれば良いですが、そうなれない時は手首が力んでいる証拠です。

 

八光捕の事が気になって、旧Twitterに上げた私の先生の八光捕の写真を見直しましたが、手首はやや内側を向いている印象でした。

https://x.com/yawaraisha/status/939761691578982400?s=46&t=dG7FLk-0R_a4NE0ah3BDMA

f:id:Yawaraisha:20240317120530j:image

八光流では指先を開く事を重視しますが、それによって「力を棄てる」ことが出来なくなれば本末転倒です。全ての技はお互いに関連し合っています。八光捕が上手くいかない時は「お化けの手」で手首と手先の感覚を掴んで下さい。

ひょっとすると合気道大東流の方にとってヒントになるかも知れませんね。

 

 

 

「腕押捕」の中にある「木葉返」

以前の記事で『女子護身道を学んで以降は「腕押捕」のやり方を少し変えました』と書きましたが、その記事で書いた以外にも女子護身道の腕押捕には大きなヒントを貰っています。

女子護身道は八光流柔術黎明期に初代宗家が女学生向けに作成した護身術の型です。八光流柔術と共通する技も幾つかありますが、型の本数が少ない為、八光流柔術の代表的な技であっても採用されていない技もあります。しかし、採用が見送られた技であっても別の型の中で同じ動きが取り入れられている様に感じます。

この辺りは初代宗家が明確に書き残していないので、想像の域を出ませんが、八光流と共通する技であっても少しずつ取口を変化させているのは確かです。

例えば、「腕押捕」ですが、

八光流本傳の技は、上腕部を掴んできた相手の手を外さずに上から押さえて、そのままお辞儀をする様に相手に向けて上体を倒しながら相手を崩します。

f:id:Yawaraisha:20240224143816j:image

一方、女子護身道では、掴まれた側とは反対の手で相手の掴み手を外して手首を極めながら下へ落とします。

f:id:Yawaraisha:20240224144056j:image

初めて女子護身道を習った時は、八光流と比べて「力任せ」の印象でしたが、よくよく考えてみると相手の掴みを引き剥がして落とす一連の動作は二段技「木葉返」の裏の形である事に気付きました。(大東流の一部の会派で「内木葉・外木葉」と使い分けている技があるそうです)

そして、この形は、三段技「腕押捕」の後半部にも登場します。教本写真でも確認できますが、何せ正しい取口が普及していないので、この部分は理解されないかも知れません。教本写真通りに技をかけると効き目が格段に向上するのですが、私自身も、この大切なコツに気が付かず「三段技は難しいな〜」と長い間、課題にしていました。

習い始めのうちは難しいかも知れませんが、ある程度、技を習得した後で初代宗家の遺された技の解説を読むと、実に色々な発見があります。

女子護身道については、技の復元を担った指導担当者が本部を離れたので「正確な技」を習う事は難しいと思いますが、一般技の教本は八光流総本部に問い合わせれば入手できる筈です。

 

追伸

女子護身道のイラストで左で目潰しをしていますが、これは本来の型にはない動作です。

 

 

 

「立ち当」(たちあて)

八光流柔術・初段技12箇条

送りカナの表記は教本の通りにしています。

イラスト上では

右側:取/左側:受となっています。

 

f:id:Yawaraisha:20240217235218j:image

 

(イラスト解説)

①相手が左手で右手首を掴んで右手で殴らんとするのに対して右足を一足進めながら右手を左耳に向けて挙げる。

②右手を挙げながら相手の掴みを外す。

③耳(眼)の高さに挙げた右手で手刀を作り相手の眼下に当身を入れる。

④半身になりがちだが胸と胸を合わせ相手との正対を保つ。左手を後ろに引くと半身の弊害を助長するので、左手は腰よりも前に置く。

⑤左手が前にあれば接近時に帯を掴んだり、腹を突いたり抑えたりと次の動きに繋げられるが、左手を後ろに引いた半身の姿勢だと攻めが遅れる。

昔々「八光流は避けない!いなさない!正面で受ける!」と言われている師範がいましたが「なるほど!」と思いました。実際、三段技の突身捕は八光流独特の技ですが相手の突きを腹で受けています。昔は実際に腹や胸を拳で突かせる稽古もした様です。

しかしながら「立ち当」に関して言えば、ヒラリっと身を翻す人が殆どではないでしょうか?帯の結び目を相手に向けながら、手と反対側に手刀を置く構えは慣れないと結構厳しい筈ですが「立ち当」の難しさが語られる事はありません。

皆さん、簡単な技だと誤解しているのかも知れませんね。ただ、私自身も「立ち当」の本当の難しさや技の意味に気付いたのは剣術を学び始めてからだと思います。もし「立ち当」について十分な理解があり正しく稽古していたならば、剣の構えで、あれほど苦労はしなかったでしょう。剣術を通じて八光流への理解が深まりましたが、それは剣と柔に通底する術理があるからだと思います。

 

 

 

 

 

2018年の稽古写真

f:id:Yawaraisha:20240212135020j:image

 

2018年3月25日付の旧Twitter

投稿写真を添付しました。

 

この時は

体験入門者に初段技「腕押捕」を

やって貰いました。

 

難しい技ですが、

絶対に身体を回さない!
余計な動きをしない!
っと言う事を徹底したら

結構、綺麗に技が決まりました。

 

「オッ〜凄い!」

「綺麗な技だな〜」

っと思いながら撮影したのが

冒頭の写真です。

 

正しいアプローチがなければ

難しい技は

何年経っても難しい技のまま。

言いたくはないですが

いくら稽古を重ねても

上達しません。

 

一方で、、、

技のポイントを押さえれば

難しいと言われる技でも

意外とアッサリ、成功するものです。

 

技の迷宮に陥る時は、

先生の話を聞いていないか?
先生がちゃんと教えていないか?

或いは、

その両方ではないでしょうか?

 

 

相手の中心へ切り込む!

【 腕押捕・胸押捕 】
 
上腕部または胸部を押さえながら、 
殴って来る相手に対する技。

2つとも八光流柔術の初段技です。

f:id:Yawaraisha:20240210020537j:image

相手の掴み手に軽く触れ、 
対角線上の肩と肩を合わせつつも 
我が上体を前に倒すと 
相手は腰砕けに崩れ落ちる。
 
八光流入門者にとって最初の難関。

 
横を向かずに真っ直ぐに
我が身を前に折る。
 
途中で腹圧を抜かない事。
 
鼻梁、鳩尾、臍を結ぶ中心線は 
前を向いて真っ直ぐに。

僅かでも横を向くと 
身体が廻って攻めが 
緩んでしまいます。

f:id:Yawaraisha:20240210020119j:image 
一方で自分の左肩を 
相手の左肩へぶつけろ! 
との要求もあり、
腹を捩らず背中を捻る
 
身体遣いが必須になります。

 

今週の居合(抜刀術)の稽古で
教えられた「左脚を踏み出して、
鞘を持つ方の肩をやや引く」動きも、
突き詰めて考えると 
同じ身体遣いと理解しています。
 
古流の剣術、居合を学ぶ中で 
八光流に対するヒントを
拾う事も少なくありません。
 
やわらいしの稽古では
八光流に限らず様々な視点から

術と身体遣いへの 
理解を深めていきます。

 

f:id:Yawaraisha:20240210020158j:image


腕押捕・胸押捕で使われる 
斜めにならず真っ直ぐに  
身体を倒す動きですが、 
中々難しく、分かりづらいので 
理解を促す為に補助(面)を 
追記しています。
 
この技の術理を理解したい方は 
稽古にご参加下さい。
 
ご興味のある方はDMか
 
メール✉️でお問い合わせ下さい。
 
yawaraisha@gmail.com

稽古参加希望と書いて
 
頂けると助かります。