柔術・古武術・秘伝の探求

八光流柔術の道場「やわらいしゃ」のブログです

引投について

「引投」は八光流柔術の初段技13ヶ条にある立業です。両手を掴まれた状態から相手を左右いずれかに投げ捨てる技ですが、手首を掴まれたまま腕の操作で相手を崩し、体捌きで相手を転がす様に投げます。

シンプルでありながら崩しに対して多くの示唆や気付きを与えてくれる技であり、門人内でも人気のある技の一つではないでしょうか?私が入門した道場では受身の練習を兼ねた準備運動として引投を稽古していました。支部道場ごと、師範によって技の趣が大きく異なるのも「引投」の特徴でしょう。

「引投」は座技になると名前を変えて「合気投」と呼ばれます。此方も非常にシンプルな技であるが故に「引投」と同様に技のローカリゼーション(支部道場ごとの技法変化・現地化)が激しい技で、師範によって技の趣がかなり変わってきます。とは言え、近年開催された基本技統一セミナー等により、教本通りの模範的な形も浸透して来ているので「引投」ほどの技の変化は起きてない様に感じます。

模範的な「合気投」を立技で行えば「模範的な立ち合気投」になる筈ですが、八光流の教本に「立ち合気投」と言う技名は存在しません。同じく初段技「手鏡」の場合、立業の解説に「立ち手鏡」で明記されているのとは対照的です。

八光流では座技と立技に違いがあっても同じ技法であれば、原則的に同一の技名をつけていますが、「引投」だけは大きく原則を逸脱しています。

この点は長年、疑問に思って来ましたが、技を仔細に検証してみると現在主流の「引投」は確かに「立ち合気投」と呼べない部分を多く含んでいます。初代宗家は、本質的な技法の相違を踏まえて「立ち合気投」ではなく「引投」と名付けたのではないでしょうか?

どうやら、「引投」と「合気投」を関連づける事自体が間違いなのでしょう。「引投」は「引投」として稽古して、シンプルな動きを楽しめば良いのだと思います。